「なぜ言うことを聞かないのか」を心理構造から解説
「何回言わせるの?」
「わかってるはずなのに、また同じことを…」
親としては、
「これはもう性格の問題なんじゃないか?」と思いたくなるくらい、子どもが言うことを聞かない日ってありますよね。
(親の心の声)
「わざとやってるよね? 私をイラつかせたいの?」
一方で、子どもの内側では、こんなことが起きているかもしれません。
(子どもの心の声)
「ちゃんとしなきゃと思ってるのに、気づいたら忘れてる…」
「怒られるのはイヤだけど、今はゲームがやめられない…」
発達心理学や脳科学の知見をベースにすると、「言うことを聞かない」は、
- 発達段階の問題
- 感情と環境の問題
- 性格(気質)のクセ
- そして、親側の関わり方
が重なって起きている「現象」として見えてきます。
この記事でわかること
- 子どもが「言うことを聞かない」とき、発達段階・感情・環境・気質など複数の要因が重なっていること。
- 幼児期・小学生・中学生以降で、「反抗」や「聞けなさ」の意味合いが少しずつ違うこと。
- 抽象的な叱責や比較、タイミングの悪い説教が、自己肯定感や親子関係を傷つけやすい理由。
- 「1回1指示」「やる前の合意」「できた直後のフィードバック」といった具体的な関わり方のポイント。
- 「完璧」を目指すより、小さな成功体験を積み重ねるほうが、子どもが「聞ける自分」を育てやすいこと
自我の芽生えと自己主張(「自分で決めたい」欲求)

発達心理学では、幼児期〜学童期にかけて「自我」が強くなり、
「親に決められる側」から「自分の意思を持った一人の人間」になろうとする時期が来るとされています。
(子どもの心の声)
「服くらい自分で選びたい」
「まだ遊びたいのに、なんで今やめなきゃいけないの?」
親からは「反抗期」「言うことを聞かない」に見える行動が、実は自分の輪郭をつくる作業であることも多いのです。
(親の心の声)
「なんでも『イヤ』しか言わないじゃん…」
ここで大事なのは、
- 何でも子どもの主張を通す → わがまま放題
- すべて親が決める → 「自分で決める力」が育たない
という二択ではなく、「任せる範囲」と「親が決める範囲」を分けることです。
例)
- 親が決める:
「今からお風呂に入る」という方針 - 子どもに任せる:
「3分後に入るか、5分後に入るか」は子どもに選ばせる
「全部言うことを聞かせる」のではなく、
「自分で決められる余白」を少し渡していくイメージです。
実行機能(注意・抑制・切替)の未成熟
脳科学では、前頭前野が担う
- 注意を向ける力
- 衝動を抑える力
- 行動を切り替える力
などをまとめて「実行機能」と呼びます。
この実行機能は、大人のように十分働くようになるまでに、かなり時間がかかります。
(子どもの心の声)
「宿題しなきゃ…でもテレビが気になる…あ、もうこんな時間!」
このとき親は、
(親の心の声)
「わざとダラダラしてる」
「言われるまでやらない性格なんだ」
と感じがちですが、実際には「やるべきことを実行するための脳の機能」が、まだ発展途上であることが多いのです。
ポイントは、
「やらない性格」ではなく、「まだ自分一人でコントロールしきれない段階」
と見てあげることです。
善悪より「快・不快」で行動しがち
子どもの行動原理は、
- 「良い・悪い」「将来のため」よりも
- 「今、楽しいかどうか」「気持ちいいかどうか」
という快・不快に大きく影響されます。
例:
- 宿題:めんどくさい・つまらない
- ゲーム:楽しい・ワクワクする
であれば、脳は自然とゲーム側に引っぱられます。
(子どもの心の声)
「宿題の必要性はわかる…でも今はゲームがやりたい…」
ここに、性格(気質)も絡みます。
- 刺激追求が強い子:目の前の楽しさに一気に流されやすい
- 慎重で不安が強い子:失敗が怖くて手をつけられない
「わかっているのにできない」
そのギャップに、子ども自身が一番苦しんでいることもあります。
年齢別「言うことを聞かない」の見え方
同じ「言うことを聞かない」でも、年齢によって背景は少しずつ違います。
幼児期(〜年長くらい)
- 自我の芽生えが強く、「イヤ」「自分で!」が増える
- 快・不快の影響が最大級で、「今楽しいかどうか」が最優先
- 実行機能はまだごく初期段階で、「約束を守る」はかなり難しいタスク
(親の心の声)
「何を言っても『イヤ』しか返ってこない…」
(子どもの心の声)
「自分でやりたい!でも思いどおりにできなくてイライラする!」
小学生(特に低〜中学年)
- ルールや善悪は理解し始めるが、実行機能はまだ不安定
- 友だち・遊び・ゲームなど、外部刺激が一気に増える
- 「わかっているけど、気づいたら別のことをしている」が頻発
(親の心の声)
「もう小学生なんだから、それくらい自分でできるでしょ…」
(子どもの心の声)
「やらなきゃと思ってるけど、つい忘れちゃう…」
中学生以降
- 思考力が伸びる一方で、親の価値観への疑問や反発が出てくる
- 「言うことを聞かない」が、自己主張・距離取りのサインになることも
- 感情の揺れが大きく、親子間のコミュニケーションも複雑化
(親の心の声)
「前みたいに素直じゃなくなった。もう私の話なんて聞いてない気がする…」
(子どもの心の声)
「自分の考えだってあるのに、子ども扱いされるのが一番イヤ…」
年齢が上がるほど、「言うことを聞かせるかどうか」ではなく、
「どう対等に話し合っていくか」が大事になっていきます。

「“反抗”って、ただのわがままじゃなくて、
自分の輪郭をつくろうとしているサインでもあるんですね。」

「そうなんです。年齢ごとに『まだ難しいこと』と『任せていいこと』も違ってきます。
“言うことを聞かせる”より、発達段階に合わせて
『どこまで任せるか』を調整していけると、親も少しラクになりますよ。」
🍀行動の裏にある3つの要因

動機づけの欠如(意味・目的が不明)
モチベーション研究では、
- 自分で選んでいる感覚(自律性)
- できそうだという感覚(有能感)
- 大事な人とのつながり(関係性)
が満たされると、人は動きやすくなると言われています。
しかし現場では、
「とにかく今すぐやりなさい」
「なんでやらないの、当たり前でしょ」
といった形で、意味や目的がすっ飛ばされてしまうことがよくあります。
(子どもの心の声)
「なんでそれをやる必要があるのか、よくわからない…」
(親の心の声)
「いちいち理由なんて説明してられない」
全部を理屈で説明する必要はありませんが、
- 「明日困らないように今やっとこうか」
- 「早く終わらせたら、あとで一緒にゲームしよう」
のように、子ども目線での意味やメリットをひと言添えておくと、行動のエンジンがかかりやすくなります。
感情の洪水(不安・怒り・疲れ)
行動の前には、いつも感情の波があります。
- 学校でがんばりすぎて、帰るころには心身ともにクタクタ
- 友達とのトラブルがあって落ち込んでいる
- 「どうせ怒られる」と思って先にあきらめている
(子どもの心の声)
「頭ではやらなきゃってわかるけど、もう動くエネルギーが残ってない…」
親はそんな内側には気づきにくく、
(親の心の声)
「サボり癖がついてる」
「だらしない性格なんだ」
と解釈してしまいがちです。
ところが、感情が洪水状態のときは、
理屈や正論がほとんど入っていきません。
- まずは「今日ちょっと疲れてそうだね」と気づきを伝える
- 落ち着くための時間やスキンシップを少し挟む
といった感情へのケアが、行動の前提として必要になる場合も多いです。
環境トリガー(誘惑・雑音・過負荷)
研究でも、
「人は意志の力よりも環境の影響を強く受ける」と言われています。
- テレビ・スマホ・ゲームが視界にある
- 勉強する場所が片づいていない
- 机の上に誘惑が多すぎる
(子どもの心の声)
「宿題をやりたい気持ちもある。でも気づいたらスマホに手が伸びてる…」
(親の心の声)
「やる気がないだけでしょ」
実は、「やる気の問題」ではなく「環境設計の問題」であることも多いです。
- 宿題の時間だけはテレビ・スマホをOFFにする
- 勉強スペースからおもちゃを一時的に退避しておく
など、子どもが「聞ける」「やれる」環境づくりは、親にできる強力なサポートのひとつです。

「サボり癖とか性格のせいだと思ってたけど、
動機づけや感情、環境がこんなに影響していたとは…。」

「『やる気がない』で片づけてしまうと、
子どもが本当に困っているポイントが見えにくくなります。
意味づけ・感情のケア・環境づくり、この三つを少しずつ整えるだけでも、
“聞けなさ”はだいぶ変わってくるんですよ。」
🍀逆効果になりやすい親の関わり

指示の多発・抽象的な叱責
よく出てくるフレーズとして、
- 「いい加減にしなさい」
- 「ちゃんとしなさい」
- 「何度言わせるの!」
(親の心の声)
「具体的に説明してる暇なんてない!」
でも子どもからすると…
(子どもの心の声)
「何をどうすればいいのか、結局よくわからない…」
抽象的な叱責は、
子どもの脳に「次どう動けばいいか」の情報をほとんど渡していません。
さらに、
「片づけて、宿題して、明日の準備して、歯磨きして…」
と一気に言われると、実行機能が未熟な子どもの頭はフリーズします。
「できない → 叱られる → 自信をなくす」のループが回り始めると、
行動の改善どころか、自己肯定感まで削られてしまいます。
比較やレッテル貼り
- 「弟はちゃんとできるのに、なんであなただけ」
- 「あなたは本当にだらしないね」
- 「どうせまたやらないんでしょ」
(親の心の声)
「悔しくてつい言ってしまう…でも少しは響いてほしい」
(子どもの心の声)
「どうせ自分なんて…」
「何やってもムダだ」
比較やレッテル貼りは、一瞬「効いた」ように見えることもありますが、
長期的には自己肯定感・親への信頼・挑戦する意欲を削りやすい関わりです。
タイミング無視の説教
- 子どもが疲れている夜遅く
- すでに一度泣いて、やっと落ち着いてきたとき
- 怒りのピークが過ぎて、ぼんやりしているとき
に、まとめて長い説教をしてしまうことも、よくあります。
(親の心の声)
「今日のことは今日のうちに反省させなきゃ」
しかし、
(子どもの心の声)
「もう何を言われてるか入ってこない…早く終わってほしい…」
タイミングが悪い説教は、「学び」ではなく「苦痛の上乗せ」になります。
(親)
「いい加減にしなさい、とか、
弟と比べる言い方…思いっきりやってしまっていました…。」
(先生)
「そこは、どの親御さんも一度は通るところです。
大事なのは『あ、これは逆効果かもしれない』と気づけたこと。
これからは、同じ場面で少しだけ言い方やタイミングを変えてみる――
その小さな修正だけでも、子どもの反応は変わっていきます。」
🍀「聞ける」状態をつくる関わり

短く具体的(1回1指示)
まずは、指示の出し方をシンプルにします。
- 抽象語を避ける
✕「ちゃんと片づけなさい」
○「床に落ちているブロックを箱に入れてね」 - 一度に一つだけ指示する
✕「片づけて、宿題して、明日の準備して」
○「まずはおもちゃを片づけよう。終わったら教えて」
(子どもの心の声)
「何をすればいいか、これならわかる」
(親の心の声)
「一個ずつ言うのは手間だけど、その分ケンカは減るかもしれない」
最初のうちは、親のほうが「めんどう」に感じるかもしれません。
でも、ここを丁寧にすると、
結果的に怒鳴り合いの時間は確実に減っていきます。
やる前の合意(目的・手順・期限)
指示の前に、ミニ打ち合わせを挟みます。
- 目的
「明日困らないように、今日のうちに宿題終わらせよっか」 - 手順
「まず計算だけやって、そのあと5分休憩しよう」 - 期限
「時計の長い針が6になるまでにここまで終わったら、ゲーム10分しよう」
(子どもの心の声)
「ゴールが見えるし、自分でもなんとかできそう」
(親の心の声)
「一緒に段取りを決めるのは少し手間。でも、ダラダラ注意し続けるよりはマシか…」
「やる前に合意する」こと自体が、子どもの自律性を支える関わりになります。
できた直後の即フィードバック
行動が終わったあと、「すぐに」反応を返すことも重要です。
- 「ここまで終わらせたね」
- 「途中でイヤになりかけたけど、戻ってきて最後までやったね」
- 「約束したところまでちゃんとできたね」
ポイントは、
- 結果だけでなく、「過程」を言葉にしてあげること
- 「できて当たり前」をスルーしないこと
(子どもの心の声)
「ちゃんと見てくれてる。次もがんばろうかな」
(親の心の声)
「ホメるポイントを探すの、最初はなかなか大変…」
小さな「できた」が積み重なると、
「言われたことをこなせる自分」という自己イメージが、ゆっくり育っていきます。

「1回1指示とか、やる前に合意しておくとか…
正直ちょっと手間だけど、その分ケンカが減りそうな気がしてきました。」

「そうですね。いきなり全部やろうとしなくて大丈夫です。
まずは『1回1指示』だけ意識してみる、
余裕がある日は『合意してから始める』も試してみる、くらいでOK。
試行錯誤しながら、親子に合う形を一緒に探していきましょう。」
🍀まとめ
「聞けない」は未熟さ・環境・性格が絡んだ結果
子どもが「言うことを聞かない」とき、そこには、
- 発達段階の未熟さ(実行機能・自我の発達)
- 感情の状態(不安・怒り・疲労)
- 環境のノイズ(誘惑・雑音・過負荷)
- そこに性格(気質)のクセが重なること
これらが複雑に絡み合うことで、
「言うことを聞かない」という表面的な現象としてあらわれます。
「性格が悪いから」「親の言うことをナメているから」
だけでは説明しきれない構造がある、という視点を持っておきたいところです。
指示より準備(合意・環境調整)
- 1回1指示で、短く具体的に
- 「何のために」「どう進めるか」を事前に合意する
- 誘惑や雑音を減らし、「聞ける環境」を整える
指示の工夫+事前準備+環境調整の三点セットで、
「聞けない」が「聞けるかもしれない」に変わっていきます。
成功体験の積み上げが近道
親としては、
- 「今日こそ完璧にさせたい」
- 「一度でわかってほしい」
とつい思ってしまいますが、発達の視点から見ると、
一度の説教より、何度もの“小さい成功”のほうが圧倒的に効きます。
- 少しだけハードルを下げる
- 合意してから始める
- できたらすぐに具体的に認める
この地味な繰り返しが、
「聞けない子」ではなく、
「少しずつ聞けるようになっていく子」を育てていきます。
完璧な親である必要はありません。
ただ、今日少しだけ「聞ける状態づくり」を意識してみる。
その小さな一歩が、親子の明日をじわじわ変えていきます。
(親)
「“言うことを聞かない子”じゃなくて、
“これから聞けるようになっていく途中の子”なんだって思えるようになりました。」
(先生)
「その見方の変化が、いちばん大きな一歩だと思います。
完璧な親になる必要はありません。
今日話したことの中から、できそうなことを一つだけ選んで、
“実験してみよう”くらいの気持ちで試してみてくださいね。」
- この記事の内容は、日本の発達心理学・教育学の知見をベースに整理しています。
もっと深く知りたい方は、以下の参考資料もあわせてご覧ください。 -
- イヤイヤ期を、子どもの発達と親のストレスの両面から整理した論文(東亜大学紀要)
「イヤイヤ期」を考える(PDF) - 実行機能(注意・抑制・切替)と「がまん」の発達を、脳の発達や支援方法とあわせて解説した連載・ブックレット
子どものがまんを科学する――実行機能の発達(森口佑介・ちとせプレス) - 子どもの自己制御(感情や行動のコントロール)が育つための社会的環境や、大人の関わり方について論じた論文
自己制御の発達に必要な社会的条件と働きかけ(立命館大学リポジトリ)
- イヤイヤ期を、子どもの発達と親のストレスの両面から整理した論文(東亜大学紀要)


