部下と本当の信頼関係を築く面談

「面談をしても、部下が本音を話してくれない」──そう感じたことはありませんか?
上司として、部下との対話の場を設ける面談は多くの職場で行われていますが、多くのマネージャーが「面談がただの形式になっている」と感じているのが現実です。上司が話しすぎてしまったり、表面的な報告に終始したり、指導や説教の場になってしまったり──こうした状態では、部下は本心を語ることができません。
本当に意味のある面談とは、部下が自分の考えや気持ちを率直に話せる場であり、上司がその話に耳を傾け、共に考え、信頼を築く時間であるべきです。
本記事では「傾聴」と「共感」の姿勢に基づいた、マネージャー向けの実践的な面談方法について、理論だけでなく、日々の職場で活用できるステップとともに紹介します。
第1章:面談とは“誰のため”の時間か
面談というと、多くのマネージャーは「評価」「目標管理」「指導」などを目的にしてしまいがちです。しかし、それが全面に出すぎると、部下は身構えてしまい、本音を語ることができなくなります。
本来、面談は「部下のための時間」であり、部下の考えや気持ちに耳を傾け、支援するための対話です。上司が一方的に話す時間ではなく、部下が主役になる時間です。この“主役交代”の視点を持つことで、面談の質は大きく変わります。
「最近どう?」というシンプルな問いかけから、部下が自由に話せる雰囲気をつくること。話の流れを遮らず、途中で評価やアドバイスを挟まず、「聴くことに徹する」こと。これが、信頼関係を育てる第一歩です。
傾聴とは、単に相手の言葉を受け取ることではありません。「この人は自分のことを理解しようとしてくれている」と相手に感じさせる姿勢そのものです。共感はその延長線上にあり、相手の感情に寄り添いながら、一緒に意味を探っていく関係です。
第2章:本音を引き出すための土台づくり
面談で本音を引き出すには、事前の関係づくりが欠かせません。人は、信頼できる相手にしか本当の気持ちを話そうとしないからです。
たとえば、日々のちょっとした声かけ──「今日も忙しそうだね」「最近調子はどう?」。あるいは、昼休みに偶然一緒になったときに交わす雑談、日報のひとことへのリアクション。こうした“小さな接触”が積み重なることで、部下にとっての「安心の土台」が築かれます。
逆に、日頃まったく会話がない上司から突然面談を求められても、部下は心を開けません。「評価される」「叱られる」という恐れが先立ち、当たり障りのない返答しかできなくなります。
つまり、面談の成功は日常の積み重ねにかかっています。小さな関心の表明、感謝の言葉、見守る姿勢──それらが「この人なら話しても大丈夫」という信頼につながるのです。
第3章:“出来事”ではなく“感情”にフォーカスせよ
面談の場では、部下に「最近どうだった?」と尋ねることがあるでしょう。その際、つい上司は「何があったか(出来事)」を詳しく聴こうとしがちです。しかし、出来事の表面を追うだけでは、その人の内面には触れられません。
本当に大事なのは、「それをどう感じたか?」という感情への注目です。
同じ出来事でも、人によって反応はまったく違います。ミスをして「申し訳ない」と感じる人もいれば、「やってられない」と怒る人もいます。その感情の違いには、必ず理由(背景となる価値観や経験)があるのです。
「悔しかったんだね」「ちょっと納得できなかったのかな?」──このように感情を言葉にして返すことで、部下は「わかってもらえた」と感じ、より深く話し始めます。感情は、人間関係の本質にアクセスする鍵なのです。
第4章:感情のリフレクションと意味づけ
部下が感情を言葉にしたとき、それを上司がどう受け止めるかが面談の成否を分けます。ここで大切なのが、「リフレクション(感情の反射)」と「意味づけの支援」です。
リフレクションとは、相手が話した感情を、上司が改めて言葉にして返すことです。「怒ってるように聞こえるけど、それは“悔しさ”から来てるのかな?」──このように言い換えることで、部下は「そう、まさにそれなんです」と自己理解を深めます。
さらに、感情の背景にある“意味”を一緒に探っていくことが重要です。
「なぜ、そこまで落ち込んだのか?」「なぜ、その言葉が引っかかったのか?」
上司が一緒に考えることで、部下は単なる出来事ではなく、その背後にある「価値観」や「信念」に気づき、より深い自己理解へとつながります。
第5章:面談のゴールは「部下の価値観」に触れること
面談がうまくいくと、部下の“価値観”に触れる瞬間があります。
価値観とは、「何を大切にしているか」というその人の内なる軸です。たとえば、「失敗は避けたい」という言葉の裏には、「完璧でありたい」という価値観があるかもしれません。「納得できない指示には従いたくない」という言葉の背景には、「自律性を重んじたい」という思いがあるかもしれません。
上司としてこの価値観を理解できれば、業務の割り振り、コミュニケーション、育成の方法が変わります。同時に、部下自身も「自分って、こういう人間だったんだ」と再確認し、主体性が高まっていきます。
面談を通して価値観が共有されれば、両者の相互理解が進み、心理的安全性が一段と深まるのです。
第6章:信頼関係は「面談のその先」を変える
傾聴と共感をベースとした面談は、個人の対話を超え、チーム文化にも影響を及ぼします。
「自分の話をちゃんと聴いてくれる」「この人には安心して話せる」
そう思える上司がいるだけで、職場の空気は変わります。報告・相談・アイデアの共有が活発になり、チーム全体のパフォーマンスが底上げされます。
Googleの研究では、「成果を出すチーム」に共通する要素として“心理的安全性”が挙げられました。これはまさに、傾聴と共感を実践しているかどうかにかかっています。
信頼関係は一日で築けるものではありませんが、一回一回の面談を丁寧に重ねていくことで、確かな関係性が育っていきます。
まとめ:今日から始める「聴く面談」
面談とは、部下の気づきと安心を育てる場です。
評価や指導に偏らず、感情と価値観に丁寧に寄り添いながら、その人らしさを引き出していく対話を、ぜひ実践してみてください。
まずは、次回の面談で「話す3割・聴く7割」を意識してみる。評価より感情を、アドバイスより共感を──そんな小さな一歩が、信頼関係の大きな土台になります。