共感すると同意したことになる?傾聴で「理解」と「賛成」を分ける練習
傾聴の基礎 第1回
「つらかったね」と返したら、相手の言い分を全部認めたことになりそう。けれど、「それは違う」と言えば、もう話してくれないかもしれない。
同僚や家族の話を聴いていて、そんなふうに返答に迷うことはありませんか。
自分とは考えが違う相手の話ほど、聴くことが難しく感じられるものです。無理に賛成する必要はありません。まず練習したいのは、相手の経験を理解しようとすることと、その人の判断に賛成することを分けることです。
今回の目標は、相手の気持ちを受け止めつつ、確かめていない事実や意見には同調しない返答を、一つ作れるようになることです。 会話例はすべて練習用の架空例です。
🍀 理解することと、同意することの違い
理解は「どう受け止めているのか」を知ろうとすること
たとえば、同僚が「会議で提案が通らなくて、悔しかった」と話したとします。
「提案が通らなくて、悔しかったんだね」と返すのは、その人の経験や気持ちを理解しようとする応答です。
提案が優れていたか、上司の判断が間違っていたかは、まだ判断していません。
また、こちらが理解したつもりでも、違うことはあります。「悔しいというより、理由を説明してもらえなかったのが嫌だった」と言われたら、教えてもらった内容に合わせて聴き直します。
同意は「その判断に賛成する」こと
一方、「あなたの提案を採用すべきだった」「上司の判断は間違っている」は、意見や判断への賛成です。
同意そのものが悪いわけではありません。ただ、話を聴くために、よく分からないことまで賛成する必要はありません。
もう一つ、気持ちを理解することと、その後の行動に賛成することも別です。腹が立った理由は聴けても、相手を傷つける行動まで認めなくてよいのです。
🍀 職場の会話で、返し方を比べてみる
同僚が、次のように話しました。
「提案を却下された。上司は私のことが嫌いだから、何を言っても駄目なんだと思う」
「それはひどい上司だね」と返すと、味方になれたように感じるかもしれません。しかし、上司が本当に嫌っているかは、この話だけでは分かりません。
反対に、「考えすぎじゃない?」とすぐ否定すると、何があったのかを聴く前に会話を閉じてしまうことがあります。
たとえば、こう返す方法があります。
「自分が嫌われているのかもしれない、と感じたんだね。どんなやり取りだったの?」
ここでは、「そう感じていること」と「実際にそうであること」を分けています。 上司の意図を確定せず、本人がどう受け止めたのかを確かめています。
気持ちの言葉が浮かばなければ、無理に言い当てなくても大丈夫です。
「そのときのこと、もう少し聴いてもいい?」
このように、知ろうとする姿勢を示す返し方もあります。
🍀 練習:あなたなら、どの返答を選ぶ?
まず、解説を見ずに考えてみましょう
同僚が言いました。
「準備した提案が通らなくて悔しい。上司は私が嫌いなんだと思う」
相手を理解しながら、確かめていないことへの同調を避ける返答は、次のうちどれでしょうか。
A「そうだよ。あなたを嫌っているから却下したんだと思う」
B「仕事なんだから、そんなに気にしないほうがいいよ」
C「準備した提案が通らなくて、悔しかったんだね。どんなやり取りだったの?」
選んだら、「なぜ、その返答を選んだか」も一言考えてみてください。
解説:今回の目標に合うのはC
Cは、本人が話した悔しさを受け止め、実際のやり取りを尋ねています。上司の好き嫌いについては結論を出していません。
Aは、未確認の理由を事実のように扱っています。Bは励ます意図があっても、本人が気にしていることを十分に聴く前に、気にしない方向へ話を進めています。
ただし、Cの言い方だけが正解ではありません。
- 「悔しかったんだね」と返して、続きを待つ
- 「準備していたんだものね。特に引っかかったのは、どのあたり?」と尋ねる
なども考えられます。相手との関係や、その場で使える時間によって調整してください。
返答の目的は、模範的な台詞を言うことではなく、相手の経験を確かめながら理解を深めることです。
🍀 自分の言葉で、一文作ってみる
次の言葉に、あなたならどう返しますか。
「何度も説明したのに、同僚に分かってもらえなくて疲れた。わざと聞いていないんだと思う」
まずは一文、書いてみてください。
書けたら、次の三つを確認します。
- 本人が話した気持ちや経験に触れているか
- 「わざと聞いていない」と決めつけていないか
- 自分の理解が違っていたら、相手が訂正できそうか
たとえば、「何度も説明して、疲れてしまったんだね」と返せます。「どんなところが伝わらなかったと感じる?」と尋ねる方法もあります。
同じ言葉を繰り返せば必ず共感が伝わる、というわけではありません。返した後の相手の言葉にも耳を向け、違っていたら「そこは違ったんだね」と修正していきます。
🍀 家族との会話でも、無理に賛成しなくていい
子どもが「友達よりできない。自分は駄目だ」と話したときも、考え方は同じです。
「自分は駄目だ」という評価に賛成せず、「比べてしまって、つらかったんだね」と受け止めることはできます。ただし、つらいかどうかもこちらの推測なら、本人の返答で確かめます。
親子の場面を詳しく練習したい方は、子どもが人と比べて苦しんでいるとき、親はどう聴けばいい?もご覧ください。
一方で、怒鳴られたり、脅されたりしているときまで、聴き続ける必要はありません。距離を取ることや、会話を中断することを優先して構いません。聴くことと、自分の安全や限界を守ることは両立してよいものです。
🍀 まとめ:明日は「賛成する前に、確かめる」を一度だけ
理解は、相手が何を経験し、どう受け止めているのかを知ろうとすること。同意は、相手の意見や判断に賛成することです。
明日以降、余裕のある会話で一度だけ、助言や賛否を伝える前に、相手が話した気持ちや経験を一文で返してみてください。練習のために、深刻な話を持ち出す必要はありません。
終わったら、「未確認のことに同調しなかったか」「違うと言われたら聴き直せたか」を振り返ります。機会がなければ、この記事の例でもう一度練習して大丈夫です。
相手の気持ちを変えられたかではなく、自分が少し丁寧に確かめられたか。それを今回の練習の目安にしてみてください。
参考資料:本記事の考え方は、相手の視点を理解し、本人の選択を尊重する対話の原則を参考にしています。MINT:Understanding Motivational Interviewing
また、短い練習と振り返りを重ねる構成は、MINT:Learning Motivational Interviewingの学習方針を参考にしています。本記事は日常会話の基礎練習であり、読了によって専門的な動機づけ面接の技能習得を保証するものではありません。
傾聴の基礎:続けて練習する
次の回:第2回|話を奪わずに聴くには?助言・自分の話を急がない傾聴の練習
