傾聴

答えを誘導しない質問とは?相手の考えを聴く傾聴の練習

白いノートを挟み、開いた手のしぐさで穏やかに対話する二人の女性
kokomaru

傾聴の基礎 第3回

「もう少し早く相談したほうがよかったんじゃない?」

相手の考えを尋ねたつもりなのに、「そうですね」と返ってきたきり、会話が続かない。そんな経験はありませんか。

質問の形をしていても、こちらが望む答えが透けて見えることがあります。特に、自分に解決策が浮かんでいるときほど、相手の考えを聴く前に結論へ向かいがちです。

今回の目標は、答えを決めて尋ねる質問を、相手が自分の言葉で答えられる質問へ一つ書き換えられることです。 文中の会話は、練習用の架空例です。

🍀 前回の振り返り:助言が浮かんだら?

相手が話している途中で、自分にも似た経験があると思いました。すぐ体験談を話す前に、何ができるでしょうか。

一つ考えてから、続きを読んでみてください。

答えの例は、続きを待つことや「それからどうなったの?」と相手の話へ戻すことです。 助言や体験談を禁止するのではなく、相手が話したいことを先に確かめる練習でした。

今回は、そのために使う「質問」を見直します。

🍀 質問の中に、答えを入れていない?

結論が先にある質問

同僚が「新しい仕事の進め方に迷っている」と話した場面です。

自分:「上司に早めに相談したほうがいいと思わない?」
同僚:「まあ、そうなんだけど……」
自分:「じゃあ、今日相談すれば?」

この会話では、「上司に相談する」が先に決まっています。相談しにくい事情や、別の困り事があっても、話しにくくなるかもしれません。

まだ分からないことを尋ねる質問

自分:「どのあたりで迷っているの?」
同僚:「二つの案件の、どちらを先に進めるべきか分からなくて」
自分:「優先順位で迷っているんだね」

ここでは、相手が困っている部分を尋ねています。相談先や解決策を考えるのは、その後でも構いません。

ただし、仕事上すでに決まっている手順なら、質問で同意を引き出そうとするより、「この案件は着手前に上司の確認が必要です」と要件を明確に伝えるほうが適切です。

🍀 広く尋ねる質問にも、短く答えられる質問にも役割がある

相手の考えを知りたいとき

「何に迷っている?」「どんなところが気になった?」のような質問は、相手が答える内容を選びやすい形です。

ただ、広く聞けば必ずよいわけではありません。「どうしたいの?」が大きすぎて答えにくいときは、話の範囲を絞れます。

「今の進め方で、特に困っているところはある?」

「ある・ない」で答えられる質問でも、話の入口になります。

確認したいことがあるとき

「締め切りは金曜日?」「今、話しても大丈夫?」のように、事実や都合を短く確かめたい場面もあります。

大切なのは質問の形だけではなく、違う答えや『まだ分からない』が返ってきても受け止められるかです。「どうすれば、もっと責任感を持てる?」は広く答えられる形ですが、相手に責任感がないと決めつけています。

質問したら、すぐ次の質問を重ねず、返答を待ちます。聴きたいことを全部聞くより、まず一つの答えを聴いてみましょう。

🍀 練習:誘導する質問を書き換えてみる

同僚が「担当を引き受けるか迷っている」と話しました。あなたは、経験になるので引き受けてほしいと考えています。

「せっかくの機会だし、やってみたほうがいいんじゃない?」

この一言を、相手の考えを聴く質問に書き換えてください。

返答例と、その理由

例1:「引き受けるかどうか、どんなところで迷っている?」

引き受ける結論を置かず、迷いの内容を尋ねています。

例2:「この話を聞いて、最初にどう思った?」

今の判断に至る前の受け止めを聴く方法です。前向きな気持ちも、ためらいも答えられます。

例3:「少し整理して話してみたい? それとも、今は考える時間がほしい?」

話し合うこと自体を望んでいるか確かめる方法です。二択以外の希望が出ても構いません。

答えを聴いて「でも、やったほうがいい」とすぐ説得を始めると、質問が意見を通す入口になってしまいます。自分の考えを伝えるなら、相手の答えを聴いたうえで、自分の意見として分けて話します。

🍀 家庭でも、答えやすさを一緒に探す

家族に「休日は出かけたほうが気分転換になるんじゃない?」と聞く代わりに、「休みの日、どう過ごせるとよさそう?」と尋ねる方法があります。

ただし、「分からない」と言われたら、質問を細かくして答えを出させ続ける必要はありません。

「まだ決めなくていいね。何か浮かんだら教えて」

選択肢が役立ちそうなら、「家で休む案と、少し出かける案があるけれど、ほかにもありそう?」と提案できます。選択肢は答えを限定するためではなく、考える助けとして使います。

🍀 まとめ:質問を一つだけ、見直してみよう

次の会話で質問する前に、「自分は答えを決めていないかな」と一度だけ確かめてみましょう。練習のために、相手から無理に話を引き出す必要はありません。

会話の後は、次の三つを振り返ります。

  • 質問の中で、相手の性格や気持ちを決めつけなかったか
  • 自分と違う答えや「分からない」を受け止められたか
  • 一つ尋ねた後、返答を待てたか

うまく尋ねられなかったら、その質問だけを書き換えてみてください。次回は、質問を増やす以外の方法として、相手の言葉を短く言い換える練習をします。


参考資料:相手の視点を知ろうとする姿勢と、本人の選択を尊重する考え方は、MINT:Understanding Motivational Interviewingを参考にしています。本記事は日常会話の練習であり、専門的な動機づけ面接の技能認定を目的とするものではありません。

傾聴の基礎:続けて練習する

前の回:第2回|話を奪わずに聴くには?助言・自分の話を急がない傾聴の練習

次の回:第4回|相手の言葉を言い換えるには?意味を足さずに聴く傾聴の練習

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雑食系学習者
専門にとらわれず、興味のタネを見つけては掘り下げる「雑食系学習者」。 文系・理系の垣根を越え、心理学・哲学・教育・社会理論などをつまみ食いしながら、「人間を理解すること」をテーマに独自の視点で探究を続けています。

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