変化への免疫とは?変わりたいのに変われない理由をやさしく考える
「次は、早めに相談しよう」
そう決めたはずなのに、また一人で仕事を進め、締め切りが近づいてから困ってしまう。
変える必要を感じても行動が変わらないと、「自分は意志が弱いのだろうか」と思うことがあります。
今回は、こうした経験を考える一つの手がかりとして、ロバート・キーガンとリサ・レイヒーの「変化への免疫(Immunity to Change)」を取り上げます。
自分が変えたいことと、今の行動が守っているかもしれないことの両方に目を向けてみましょう。
🍀 この記事でわかること
- 「変化への免疫」が表す、望む変化と自己防衛の関係
- 行動の背景にある、守ろうとする思いと前提の違い
- 自分を責めずに状況を読み、無理なく確かめるための視点
🍀 目次
- 「免疫」は、変化を妨げる働きを考える比喩
- 望む変化と、守ろうとするものがぶつかるとき
- 職場の事例で、二つの説明を比べる
- 変化への免疫についての、よくある誤解
- 一つの出来事を読み直す小さなワーク
- 取り組むかどうかも、自分で選ぶ
- まとめと次回のご案内
🍀 「免疫」は、変化を妨げる働きを考える比喩
変わりたい気持ちが、足りないのでしょうか
キーガンとレイヒーは、本人が望む変化に向かおうとする一方で、気づきにくい別の思いが、今の行動を維持することがあると考えました。その行動は、目標を妨げながら、本人にとって大切なものを守る働きもしているのです。参考:Minds at Work「Immunity to Change」
たとえば、「早く相談したい」という思いと、「準備不足だと思われることを避けたい」という思いが、同じ人の中にあるかもしれません。
相談の先延ばしが、本人の中では、自分の信頼を守る行動として意味を持っている可能性があります。
医療の診断名ではありません
ここでの「免疫」は、変化を防ぐ働きを説明する比喩です。身体の免疫機能や、病気の診断を意味しません。
また、相談できない理由を、この考え方だけで説明することもできません。上司が不在である、質問する時間がない、以前に相談して不利益を受けた。そうした現実の条件を確かめる必要があります。
心の中を振り返ることと、環境の問題を確かめることは、両方あってよいのです。
🍀 望む変化と、守ろうとするものがぶつかるとき
「競合するコミットメント」という考え方
この理論では、望む変化とぶつかるように働く、別の強い思いを「競合するコミットメント」と呼びます。「コミットメント」は、守ろうと力を注いでいること、と捉えてみてください。本人が意識して宣言した目標とは限りません。参考:Minds at Workによる用語の説明
先ほどの例なら、「信頼されない立場に自分を置かないようにする」という思いです。相談したい気持ちも、信頼を失いたくない気持ちも、本人には切実かもしれません。
その思いを支える「大きな前提」
「未完成のものを見せたら、能力がないと思われる」
このような予測を、疑いようのない事実として扱っていると、相談を避けることには筋が通ります。キーガンとレイヒーが「大きな前提」と呼ぶのは、本人には現実そのもののように感じられる前提です。ただし、前提はすべて誤りとは限らず、確かめてみる必要があると著者らは述べています。参考:『Immunity to Change』公開抜粋、原著246–250ページ
前提を言葉にする目的は、自分の間違いを見つけて叱ることではありません。「どこまで確かめられていて、どこからは予測なのか」と考えるためです。
🍀 職場の事例で、二つの説明を比べる
以下は、本記事のために作成した架空の例です。本人の本音を外から見抜くための見本ではありません。
共通する場面
藤田さんは、任意参加の社内勉強会の準備を担当しています。毎回、資料をほぼ完成させてから同僚に見せるため、直前に大きな修正が必要になり、慌ててしまいます。
「次は構成だけでも先に相談しよう」と決めました。ところが今回も、説明文を整え続けています。
説明の例A 予定を守れていないと考える
「また後回しにしてしまった。もっと自分に厳しくして、水曜日には必ず送ろう」
藤田さんは、予定表に締め切りを入れ、通知を設定しました。単に送るのを忘れていたなら、これで解決するかもしれません。
説明の例B 相談することの意味も確かめる
「送る時刻は決められる。でも、未完成の資料を見せようとすると、手が止まる。頼りない担当者だと思われるのが心配なのかもしれない」
藤田さんは、「早く相談したい」と思う一方で、「準備のできない人だと思われないようにしたい」とも感じていることに気づきました。
「自分は、途中で相談すると信頼が下がる、と決めてかかっているのだろうか。それが実際に起きたのは、いつ、どんな相手だっただろう」
二つの説明をどう読みますか
Aは、予定や行動の工夫に目を向けています。Bは、相談という行動が本人に持つ意味を確かめています。
Bが深そうに聞こえるから、必ず正しいとは限りません。藤田さんが以前、未完成の資料を理由に同僚から責められたのなら、相談への警戒には現実の根拠があります。依頼が多すぎて時間を取れないなら、担当範囲の調整が必要です。
「頼りないと思われたくない」という説明が本人にしっくりこなければ、別の事情を考えます。
この事例から持ち帰りたいのは、行動を変える工夫に加えて、その行動が本人にとって何を意味するかも尋ねてみることです。
🍀 変化への免疫についての、よくある誤解
変われないのは、結局、本人の問題なのでしょうか
人手不足、権限の不足、評価制度、安心して話せない関係などは、本人の内省だけでは解決できません。
「あなたの免疫が強いから」と言って、必要な支援を減らしたり、組織の問題を個人に引き受けさせたりしないでください。本人が目標に納得していない場合も、まず目標について話し合う必要があります。
守ろうとする思いは、なくすべきなのでしょうか
信頼を守りたい、迷惑をかけたくない、責任を果たしたい。そうした思いそのものを、悪いものにする必要はありません。
藤田さんなら、「信頼を守るには、完成するまで黙っているしかないのか」と考える余地があります。大事なものを守る方法が、一つに限られているかどうかを確かめるのです。
気づけば、自然に変わるのでしょうか
「そういうことだったのか」と納得することと、日常で違う行動を選べることには隔たりがあります。キーガンも、インタビューで気づきと行動変化の違いを指摘しています。参考:キーガン本人へのインタビュー、15ページ
同じ行動を繰り返したからといって、内省が足りないと責める必要はありません。支援、時間、方法、環境など、何を調整できるかを考えましょう。
🍀 一つの出来事を読み直す小さなワーク
以下は、本記事独自の読み取りと振り返りの練習です。正式なImmunity to Changeのワークシートや実施手順を再現したものではありません。発達段階や心理状態を判定するためにも使いません。
最初は藤田さんの事例だけで取り組んでください。自分の経験に置き換える場合も、無理なく考えられる範囲にとどめましょう。
1 気になった一文から、短い返事を書く
藤田さんが「途中の資料を見せると、頼りないと思われそう」と話したら、どう返事をするでしょうか。
思いついた一言を書きます。「考えすぎだよ」と励ましたくなったら、その反応も残しておきます。
次に、事情を知るための質問に直してみましょう。
例:「そう感じるきっかけになった場面はありましたか」
2 一つの説明に決めず、別の可能性を並べる
相談をためらう理由を、内面と環境の両方から考えます。
例:「途中で見せることを、能力不足と結びつけているのかもしれない」「相談を受ける側が、いつも完成品を求めているのかもしれない」
これは仮説です。理論に合う答えを探すことを避けるため、本人に確認するまでは、複数の可能性を残します。
3 すでにわかっていることを探す
過去に途中の相談ができた場面はあったでしょうか。そのときは、誰が、どのように応じたでしょうか。
例:「前の勉強会では、見出しだけを送ったら、同僚が一緒に順序を考えてくれた」
「いつでも大丈夫」と結論づけず、「この相手、この依頼の仕方ではどうだったか」と捉えます。
4 確かめたいなら、安全な方法を選ぶ
著者らは、前提を検討する試みを、すぐに成果を出すためではなく、前提について情報を得るためのものと説明し、安全性も重視しています。参考:『Immunity to Change』原著256・262ページ
藤田さんの例なら、実務に使わない架空の勉強会テーマで、見出しだけの短い試作をつくります。協力に同意した同僚に、「まだ文章はありません。順番だけ一緒に考えてもらえますか」と相談する方法が考えられます。
試す前に、「説明文がないと、質問にも答えてもらえないと思っている」など、確かめたい予測を具体的にします。評価や雇用への不利益が心配な相手は選びません。断られても困らない機会にし、相手の負担も確かめます。
実際の顧客資料を未確認で送る、安全確認を省く、健康上の対応を変える、といった試し方はしません。安全な場面がなければ、実行せず、考えるだけで終えてかまいません。
5 予測と、実際に起きたことを読み比べる
試したら、相手の言葉や行動を具体的に振り返ります。
例:「同僚は二つの見出しについて質問し、順番の案を出した。担当者としての評価は尋ねていないので、信頼されたかどうかはわからない」
そのうえで、「文章がなくても、構成について相談はできた」と、わかった範囲だけを言葉にします。
予測どおりに進まなかった場合も、自分の価値の評価には結びつけません。相手の忙しさや相談内容など、ほかの条件が影響した可能性を残しましょう。
🍀 取り組むかどうかも、自分で選ぶ
落ち着かない気持ちになったら、途中でやめたり、別の話題を選んだりしてかまいません。
この練習を同僚や部下に使う場合も、答えたくないことを話すよう求めないでください。私的な内省を人事評価に結びつけたり、本人の同意なく共有したりする使い方は、この連載の目的から外れます。
今必要なのが休息や業務の調整なら、それを優先してよいのです。
🍀 まとめと次回のご案内
今回は、変化への免疫という考え方を学びました。
- 望む変化を妨げる行動が、本人にとって大切なものを守っている場合があります。
- 守ろうとする思いと、それを必要に感じさせる前提を、責めずに振り返ります。
- 気づきだけで変化は保証されません。環境の確認と、本人が選べる安全な取り組みが大切です。
「なぜできないのだろう」の隣に、「今の行動で、何を守ろうとしているのだろう」という問いを置いてみてください。答えが出なくても、急いで埋める必要はありません。
次回は連載の最終回です。成人発達理論を仕事や傾聴にどう生かすか、学びを支える環境と、理論を使うときの限界を振り返ります。
🍀 参考資料
職場の事例とワークは、本記事のために作成した教育用の例です。
- Kegan, R., & Lahey, L. L.(2009). Immunity to Change: How to Overcome It and Unlock the Potential in Yourself and Your Organization. Harvard Business Press. HarvardX公開抜粋。主に原著246–250・256・262ページを参照。
- Minds at Work. Immunity to Change. 著者らが創設した団体による、基本概念の説明。
- Bachkirova, T.(2009). Cognitive-developmental approach to coaching: an interview with Robert Kegan. Coaching: An International Journal of Theory, Research and Practice, 2(1), 10–22. 著者公開の本文、15ページを参照。
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