同じ指摘でも受け取り方が違うのはなぜ?意味づけを確かめる成人発達理論
「この結論の根拠を、もう少し確認したいです」
会議でそう言われて、「自分の仕事を信用されていない」と感じる人もいれば、「どの数字を補足すればよいだろう」と考える人もいるかもしれません。
どちらが前向きかを比べる前に、その言葉が本人にとって、どんな出来事になっているのかを考えてみましょう。
基礎編では、経験を意味づける枠組みと、主体・客体について学びました。ここからの事例編では、架空の場面を詳しく読み、理論を日常の理解へつなげていきます。
今回の目標は、自分の受け止め方を一つの仮説として扱い、その仮説に合わない情報も確かめることです。傷つかなかったことにしたり、必ず良い意味に読み替えたりする練習ではありません。
🍀 この記事でわかること
- 指摘の内容と、自分や関係について与えた意味の違い
- 同じ発言に、複数の解釈を置いてみる方法
- 解釈を確かめながら、必要な修正や対話を考える方法
🍀 目次
- まず、場面を最後まで読んでみる
- 感情と、相手の意図についての推測を分ける
- 三つの解釈と、それを見直す情報
- 成人発達理論から、どこに目を向けるか
- 自分の解釈を確かめる練習
- 指摘する側にもできること
- まとめと次回のご案内
🍀 まず、場面を最後まで読んでみる
架空の事例 提案の根拠を求められた
鈴木さんは、社内の問い合わせを減らすために、案内ページを作り直す提案をしました。
資料には、最近寄せられた問い合わせの例と、「ページを見直せば問い合わせを減らせる」という結論を書いています。上司の高橋さんは、資料を見てこう言いました。
「この結論の根拠を、もう少し確認したいです」
鈴木さんは、胸が詰まるように感じました。時間をかけて準備したので、「また不十分だと思われた」と考え、すぐに説明を重ねます。
高橋さんは、「いったん、追加で調べる点を整理しましょう」と話しました。会議が終わった後、鈴木さんには「自分の考えは信用されないのだ」という気持ちが残りました。
この時点でわかることと、わからないこと
確認できるのは、資料の内容、高橋さんが発した言葉、鈴木さん自身が感じたことです。
高橋さんが、鈴木さんの能力全体を疑ったのか。提案の根拠だけを求めたのか。ほかに知りたかったことがあるのか。それは、この場面だけでは確定できません。
先を読む前に、あなたならどのように受け取るか、一言書いてみてください。鈴木さんに近い受け取り方でも、違う受け取り方でもかまいません。
🍀 感情と、相手の意図についての推測を分ける
「傷ついた」は、本人に起きた経験です
「傷ついた」「焦った」「恥ずかしかった」という気持ちは、そのとき本人に起きた経験です。
あとで高橋さんが「そのつもりはなかった」と説明しても、鈴木さんがつらかったことまで、なかったことにはなりません。
一方、「高橋さんは、自分の能力全体を信用していない」は、相手についての解釈です。こちらは、追加の情報を得ながら確かめることができます。
感情を大切にしながら、解釈には問いを向ける。この二つは、両立します。
一つの言葉から、結論が広がることがあります
鈴木さんの中では、「提案の根拠を求められた」ことが、「仕事が不十分だと思われた」、さらに「自分は信用されない」へとつながっています。
このつながりには、過去の経験や、自分が仕事で大切にしていることが関わっているかもしれません。
ただし、実際に信用を失っている可能性を、最初から除く必要もありません。まずは、どこからが自分の解釈なのかを見つけます。
🍀 三つの解釈と、それを見直す情報
ここでは、考えられる解釈を三つ置いてみます。いずれも、まだ仮説です。複数が同時に当てはまる場合もあります。
解釈A 能力や仕事ぶりへの不信を伝えた
鈴木さんが最初に受け取った意味に近い解釈です。
この解釈を考える手がかりには、以前から仕事ぶり全体への懸念を伝えられていた、今回も具体的な根拠ではなく能力について言及された、といった情報があります。
反対に、同じ検討段階では全員に根拠の確認が求められている、質問の対象が特定の数値に限られていた、という情報が得られれば、「自分全体への不信」という解釈は見直せるかもしれません。
ただし、「全員に同じ質問をするから、不信は一切ない」とまでは言えません。確認できた範囲を超えて、安心の結論をつくらないようにします。
解釈B 提案の因果関係を確かめたかった
問い合わせの例があることと、案内ページが問い合わせの原因であることは、同じではありません。高橋さんは、提案の効果を判断する材料を求めていたのかもしれません。
「どの点が確認できれば、検討を進められますか」と聞いて、「問い合わせのうち、ページに原因がありそうな件数を知りたい」と具体的な答えが返れば、この解釈に合います。
反対に、必要だと言われた情報を共有しても、評価の対象が次々に変わり、何を直せばよいか説明されない場合は、「根拠の補足だけが課題」という見方を見直す必要があります。
それでも直ちに悪意が証明されるわけではありません。高橋さん自身が判断基準を整理できていない可能性も残ります。
解釈C 提案に求められる完成度が共有されていなかった
鈴木さんは「方向性の相談」として資料を出し、高橋さんは「予算を決めるための提案」として読んだのかもしれません。
依頼時の説明や会議の目的を振り返り、何を判断する場だったかを確認すると、この食い違いが見えることがあります。
反対に、目的も必要な情報も、事前に具体的に合意できていたなら、「完成度の期待が違った」という説明だけでは足りません。情報を用意できなかった理由や、伝え方にも目を向けます。
仮説を弱める情報も探すのは、なぜでしょうか
自分にしっくりくる解釈だけで場面を説明すると、ほかの事情が見えなくなることがあります。
この練習では、「その解釈が正しそうに見える情報」と同時に、「それだけでは説明しにくくなる情報」を探します。
相手の本心を完全に証明するためではありません。今の情報でどこまで言えるかを確かめ、次の質問を選ぶためです。
🍀 成人発達理論から、どこに目を向けるか
キーガンの理論では、経験を意味づける仕組みが、思考や感情、行動を組織すると捉えます。参考:Kegan「Making Meaning」公開抄録
今回の事例で注目するのは、「鈴木さんは何段階か」ではありません。「根拠を確認されること」と「信用されない自分」が、どう結びついているかです。
「私は、説明を求められると、自分全体が疑われたように受け取りやすいのかもしれない」と言葉にできれば、その結びつきを検討する入口になります。
主体と客体の視点では、これまで自然に通して見ていた枠組みそのものへ、目を向けてみる動きです。参考:Kegan & Lahey「From Subject to Object」公開抄録
この場面で解釈を一つ増やせたことと、発達の構造全体が変わることは区別しておきましょう。落ち込むか、落ち込まないかも、段階判定の基準にはしません。
🍀 自分の解釈を確かめる練習
自分の経験で考えにくい場合は、鈴木さんの事例だけを使ってください。強くつらい場面を選ぶ必要はありません。
1 発言と、自分の中で続いた言葉を書く
「相手は何と言ったか」と「その後、自分の中でどんな言葉が続いたか」を分けます。
例:「根拠を確認したいと言われた」「私は、自分の能力が疑われたと思った」。感情は別に、「悔しかった」と書き添えます。
2 最初の解釈を、仮説として書き直す
「相手は自分を信用していない」という文を、「信用していない可能性がある。ただ、まだ確かめていない」と書きます。
この言い換えで気持ちを落ち着けようとする必要はありません。未確認の部分を、未確認として残す練習です。
3 別の解釈と、見直す手がかりを一つずつ考える
「内容の補足を求めているのかもしれない」と書いたら、どんな情報があればその解釈に合うか、どんな情報なら説明が足りなくなるかを考えます。
どちらの解釈にも、都合のよい情報だけを集めていないか確かめましょう。
4 次の仕事に必要な質問を選ぶ
例:「今回の確認対象は、提案の方向性と、効果を見積もる根拠のうち、どちらでしょうか」
「私を信用していないのですか」と関係の評価をいきなり確かめるより、仕事の検討範囲から聞ける場合があります。相手や状況に合わせ、無理のない方法を選びます。
5 わかったことと、残ったことを分けて振り返る
たとえば、「問い合わせの件数が必要だとわかった。一方、自分への全体評価は、今回の会話では確認していない」と整理します。
よい返事があったから、相手のすべてを理解できたとはしません。反対に、質問への返事が曖昧でも、自分の価値を否定する結論へ急がないようにします。
🍀 指摘する側にもできること
受け手の意味づけを理解することと、指摘の伝え方を改善することは、両方必要です。
高橋さんなら、「方向性には賛成です。予算を考えるために、問い合わせのどの程度がページの改善で減りそうかを確認したいです」と、対象と目的を説明できます。ただし、実際に賛成していないなら、安心させるために賛成だと言う必要はありません。
何を評価し、何をまだ判断していないか。いつまでに、どの程度の補足を求めるか。指摘する側も、伝える情報を具体的にできます。
人格を傷つける発言や、繰り返される不当な扱いまで、受け手の解釈だけで乗り越えるよう求めないことも大切です。
🍀 まとめと次回のご案内
同じ指摘の受け取り方を考える際には、感情の経験と、相手の意図についての解釈を分けてみます。
- 感じたことを否定せず、未確認の解釈を見つける。
- 複数の仮説に対して、合う情報と合わない情報を考える。
- 相手の本心の断定より、次の仕事に必要な条件を確かめる。
次回は、上司と同僚など、複数の相手の期待が食い違う場面を扱います。「どの期待に応えるか」だけでなく、誰が何を決めるべきかも含めて、判断を整理していきます。
🍀 参考資料
理論の説明は以下の一次資料を参照しました。事例、会話、仮説の比較、練習は本記事独自の教育用例です。効果を検証した介入や、発達段階を測る検査ではありません。
- Kegan, R.(1980). Making Meaning: The Constructive-Developmental Approach to Persons and Practice. The Personnel and Guidance Journal, 58(5), 373–380. 公開抄録を参照。
- Kegan, R., & Lahey, L. L.(2010). From Subject to Object: A Constructive-Developmental Approach to Reflective Practice. In Handbook of Reflection and Reflective Inquiry, 433–449. 公開抄録を参照。
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